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定義

長文です(笑

「あれ、好美さんだ」
西校舎、西側階段の手すりから下を流れる川を見つめているようだ。
(やっぱ、かっこいいな)その横顔を見ながら祐一は思った。

大学では学園祭のメインイベント、人気歌手によるコンサートが体育館でおこなわれている。
祐一のいる場所も数時間前までは出店が並び喧騒の中にあったが、今は閑散としている。
呼ぶ側も呼ばれる側も皆、イベント会場である体育館の方に惹きつけられてるようだ。
「祐一、早く行かないと始まっちゃうぜ」仲間に誘われたが、何となくにぎやかなその場所に行く気になれなかった。
「俺、これ片付けてるよ・・まんじゅうの蒸し器も早く返さなきゃならないからさ」
「そうか。わりぃな。じゃ、あと頼むよ」
申し訳ないという言葉だけおいて同級生たちはやはり体育館に惹きつけられていく。

祐一の所属する“鉄研”つまりは鉄道研究会が今年の学園祭で出したお店が中華まん屋だ。
そのショーケース付きの蒸し器を祐一が自分の住む街の知り合いのパン屋からわざわざ借りてきたのだ。
それを返しに行かなければならない。
いや、祐一はそれにかこつけてこのにぎやかなイベントから抜け出したかった。
浮かれきった学生達の中にいるのが嫌だった。
加えて、打ち上げなどで先輩達のご機嫌を気にするのが煩わしくもあった。
(俺って損な性格な)
微かに聴こえてくる歓声と音楽を耳にしながら祐一は片付けにいそしんだ。

「あれ?夢精クン!」
階段の上から好美が声をあげた。
誰もいない場所でひとり軽トラックに蒸し器を積んでいる姿があればそりゃ目立つ。
「夢精クンはカンベンしてくださいよ」祐一は苦笑いした。
「はは・・そうだよね」好美も笑いながら階段をおりてきた。
「体育館に行かないの?」自分こそ行くことをしないのに不思議そうな顔で訊ねてくる。
「俺、この蒸し器、地元まで返しに行かなきゃいけないんです・・なるべく早く返してって言われてるから」
「そうなんだ。面倒なこと先輩に押し付けられたってわけだ」
「別にいいんだけど。慣れてますから」

祐一の所属する“鉄研”「ノリ鉄」と好美の所属する“旅行サークル”「フォーシーズン」は同じ大学のいわば姉妹サークル。
といっても一緒に旅行をするようなこともない・・完全に男側と女側にわかれての行動をしている。
年に数度、飲み会という名目で同じ時間を過ごす程度だ。
今年の春先、合同新歓コンパで祐一は初めて好美に会った。
それまで祐一の中にあった異性への感情『可愛いか、可愛くないか』
それとはまったく違った感情を湧き上がらせたのが好美だった。
「かっこいいな」初めて女の子をそう思った。

「おーい、祐一!」
その新歓コンパの席上、上級生達が祐一を呼んだ。
「あの好美って子に『昨日、好美さんの夢を見て夢精しちゃいました』って言ってこい」
好美に興味はあるがそれを寄せつけない彼女のオーラに上級生達は後輩を使いきっかけをもとうとしてるらしい。
(くだらないな)
思ったが言われるままカウンターに座る彼女のもとに。
なるほど近くで見る彼女は、並みの男を寄せ付けない雰囲気を持っている。
「あの・・・・」祐一は自分でも驚くほどためらわず声をかけた。
「ん?あ、新人君だ!どうした?」からかうように答える。
そして言われた通りのセリフをそのまま告げた(どうなってもいいや)
「あはははは・・・・」好美はひとしきり笑ったあと祐一にこう答えた。
「あのね・・他の女の子には絶対言っちゃダメだよ・・私だけにしといてね・・もし他の子にも同じこと言ったら、私は君を嫌いになるよ」
(こりゃ、あの程度の男達じゃ100人かかってもかなわない)

二人きりで話すのはそれ以来だったか。
「どこまで帰るの?」好美が尋ねた。
「平塚です・・・知ってます?」
「横浜の方?」新潟出身の好美にはなじみのない地名であろう。
「横浜よりもっと先です・・湘南って言われる端っこ・・よかったら乗ってきますか?」
軽トラに乗る好美は想像するだけでもおかしい。
祐一のイメージの中の好美に軽トラは無縁の長物であった。
「私ね、横浜って一度行ってみたいの・・・横浜は詳しい?」
思いもかけない好美の発言に少し戸惑いながらも「もちろんです。出身地ですから。」
(おいおい俺・・出身地といっても生まれたってだけの場所だろ)
「じゃあ、乗せてってよ・・デートしよ、デート・・ドライブだ」
「本気ですか?軽トラですよ?」
「ラジオくらい付いてるでしょ?」
「ラジオはあるけど・・・」
「じゃ、十分よ」
言いながら蒸し器を乗せる祐一を手伝おうとする好美。

祐一の中での横浜といえば山下公園。
が、「なんとなくあの辺」の記憶で走っているため心もとない。
(やべっ さっきもここ走ったような気がする)
時間と共に増えてくる交通量がイライラ感を増した。
「ね、のどかわいちゃった。ジュース買わない?」思わぬ長時間ドライブに好美が声をかける。
「あ、じゃ、その辺の自販機で・・」
「ダメ。私、缶ジュースダメなんだ。女の子はねそうゆう子多いのよ。コンビニで紙パックのがいいな」
コンビニの駐車場に停め「一緒に行きますか?」に「買ってきてー」
イライラ感が募ってる祐一には「女王様か!」と悪態さえつきたい気分だった。
レジでお金を払いながら(そうだ、山下公園の場所を・・)と店員に尋ねた。
店員の説明を聞きながら(え?まさか?このために?)との考えが頭をよぎる。
好美を見れば車の中で流れてるであろう流行歌を口ずさんでいるようだ。
(考えすぎか・・・)

やがて目的地に到着し、有料駐車場に車を停め好美を山下公園へと案内する。
鎖でつながれた氷川丸が中心となるお決まりの景色だ。
二人はベンチに腰掛け暮れはじめた景色を眺めた。
秋とはいえ日が落ちれば寒くさえ感じる。
「冷えるね」好美がつぶやく。
「あ、もう帰りますか?」には「ううん、もう少しここにいる」
「じゃあ、あったかいコーヒーでも買ってきますね」
缶コーヒーを好美に手渡そうとして思い出した・・・缶アレルギー。
「ありがとう」と缶コーヒーを受け取り口にする好美
「あったまるね」笑顔を返してくれる。
(不思議な人だ)
気が付けば周りのベンチは恋人達が占領していた。
いつの間にかそこは聖地となっているようだ。
(俺達も恋人同士に見えんのかな?)祐一がそんなことを思っていたその時、好美が祐一の肩にもたれかかってきた。
再接近した一瞬だった。
(女の子っていい匂いがするんだ・・・)
さらに顔をうずめてくる好美の体を祐一は思い切って抱きしめた。
(女の子ってやわらかいんだ・・・)

以来、おいらの中の女の子の定義は“いい匂い”がして“やわらかい”こと。

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☆恋愛のこと」カテゴリの記事

コメント

ほっしーさま
いいっすねぇ~青春。
甘酸っぱいっすね、こりゃ。
ほっしーさんの人生を変えた瞬間ですね。
ところで、蒸し器はその日に返せたのですか?

投稿: 新橋オヤジ | 2007年11月 4日 (日) 00:42

女の子って抱きしめて丁度良いサイズってあるよねぇ。腕を回して心地よいサイズというか。

ホッシーも格好良くて、抱きしめて幸せを感じる女性に出会えるといいねぇ。

投稿: めぐ | 2007年11月 4日 (日) 08:35

男のヒトってかたいですよね。
でもいい匂いはするかも!

青春のひとコマがふっとよみがえる時ってありますよね。
祐一くんと好美さんの続きが気になるところです。

投稿: ま~ | 2007年11月 4日 (日) 17:10

うふふふふ。
私も蒸し器がその日に返せたのか。
祐一くんと好美さんのその後が気になります!

投稿: しも | 2007年11月 4日 (日) 21:34

新橋オヤジさん

こんばんは。
これはフィクションですね。
だから蒸し器を返せたかどうかは重要ではありません(笑
これね・・・
女の子は「いい匂い」がして「やわらかい」
『そうゆうもんだろ!』って奥に言いたかったんです(笑
「化粧したり香水つけたりしてる時間がないの・・・それと貧しさで日々痩せて、やわらかさなんてなくなりました」と奥はいいます。


めぐへ

生々しいコメントありがと。
君も女の子を抱きしめたい種類の人ですか?(笑


ま~さん

男の人ってかたい・・・う~ん。
ちょっと・・コメントしづらいな(笑
男の子も最近若い子はいい匂いがしますね。
きれいになる為の努力は怠らないようで・・・。

それがおじさんになると・・・メタボでやわらかく、加齢臭とポマードの匂いが混ざり合ったりして(笑


しもさん

ってなわけで・・・この二人に今後はありません(笑
どうしても!と仰るのであれば妄想の世界に入らないでもないですが(笑

投稿: hossy | 2007年11月 4日 (日) 22:04

こんばんは♪ お久しぶりです♪
長文読ませていただきました。。。(笑)
小説のような内容で。。。
好美さんの雰囲気 祐一さんの感情
その時間に起こった出来事を見事に想像できました。。。
素敵な女性だったのでしょうね。。。

投稿: ciccio | 2007年11月 4日 (日) 22:51

ciccioさん

小説ですよ、小説。
尚輝賞ねらってますもん・・・って、その字じゃ保阪尚輝だよ。
やわらかいって言ってもぷよぷよって意味じゃないんですよねぇ・・わかってくれました?(笑

投稿: hossy | 2007年11月 9日 (金) 20:45

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